Lousy With Desire / Walter Tragert (2004)

  Roots                  
★★★☆

  Pop                 ★★★★★

  Rock              ★★★☆

  Southern&Alt-Country ★★★
  Official Site



  Two Years Gone / WakingNorman (2003)

  Roots           
★☆

  Pop         ★★★★

  Rock      ★★★

  Acoustic ★★★★
  Official Site


 ◆本来の意味での、アクースティック・ジャム

 猫も杓子もジャムバンド。
 このような感慨を筆者が持つに至って久しい。
 メジャーでもJohn Mayerというバッタもんシンガーが一躍脚光を浴びたのは、米国メジャー・シーンを注目している人になら記憶に新しい事だと思う。
 ナチュラル志向及びポップ、この明らかに看板に偽りがあるコピーで、ほぼ1年遅れでも本邦で紹介されたMayerは異様に高い評価を受けている。

 しかし、筆者にしてみれば、このシンガーは単なるDave Matthews Bandの亜流 ―好意的な表現を使用しても、激烈にイージー・ゴーイングなDave Matthewsのリスペクター、…誉めてないなあ ―に過ぎない。
 ラウドロックやエモロックへのアンチテーゼとして挿入される、恣意的なアクースティックギターとエレクトリックサウンドの気持ち悪い重合。
 クロスオーヴァーと云うと豪奢に響くが、その実は中途半端にあれこれと音楽性を齧り盗ったヘニャフニャなライン。
 現在、戦闘艦船の階級に例えれば、廃艦寸前オンボロ駆潜艇クラスという体の駄目シンガーが、「本格的アメリカンシンガー」とか持ち上げられているのには頭痛しか覚えない。
 取り敢えず、自力で良い音楽を紹介すら出来ない日本の音楽雑誌メディアとレコード会社の担当は漬物石抱えて桂川にでも沈んでください。というか、沈め。

 しかし、腐りきったメジャーでDMBの亜流や二番煎じや迎合者が溢れるのは最早仕方ないとして、独自の創作空間が大きく面積を取っているインディ・シーンでもDMBのような音が飽和気味なのは物凄く面白くない。
 しかも、DMBが90年代のジャムサウンドを確立させた、そのオリジナリティで勝負出来ていた「Under The Table And Dreaming」や「Crash」というユニークなアルバムの音を再現するのではなく、ライヴの収益が常に全米でトップクラスになってしまった後。どうしようもなく退屈で堕落してしまって以降のDMBサウンドをリアレンジして聞いているようにしか思えないバンドばかりというのはどうかと思う。
 DBM自体が、エレクトリックギターを取り入れ、ジャムバンドからオルタナティヴロックへと改悪を遂げ、中興の祖的バンドが終焉してしまっているのに、フォロワーが続いていく流れは一向に緩まない。
 アクースティック弦にヴァイオリンやサックスを加え、ジャズやソウル、そしてワールドとR&Bっぽい音で曲を仕上げれば、ハイ、無難でそこそこファンが着く新鋭ジャムバンドの出来上がり。という次第である。
 本来、よりロックオリエンティッドだったジャムサウンドが、アクースティック中心なサウンドの代名詞として解釈されるに至ったのは、Spin DoctoersやBlues Travelerの短期的なヒットより、DBMの与えたインパクトが原因になると思う。
 しかし、

 そういったジャムサウンドの悪循環が車輪のように廻る中にも、元祖と解釈されるジャムバンドのルーツ的バンドのGrateful DeadやThe Allman Brothers Bandのように独特のセンスを見せてくれるバンドが出現する事もある。

 それが、WakingNormanである。
 しかし、ジャズやワールドビートのエキセントリックでアヴァンギャルドな鋭角的メロディがジャムバンドの必須条件となるならば、このロックユニットはジャムバンドとは呼ばない方が適当かもしれない。
 ヴァイオリンを加えたアクースティックな音色と、スタイリッシュなビートが実に印象的なサウンドは、「色々なものを詰め込む」、「雑多な状態」という意味でのJamに十分に対応している。
 更に、独特の音創りというプログレッシヴなセンスも、楽器の混合の中から新しい音を創造しようとするジャムサウンドの要件をしっかりと満足させている。

 それらを考慮してなお、ジャムサウンドにしてはコマーシャル過ぎると思うならば、風変わりなアクースティックポップのバンド。そうWakingNormanを解釈すれば良いし、実際ジャムロックというジャンル自体があまり好きではない筆者も、「一風変わったアクースティック・ポップバンド」とWaking Normanを分類しているのだ。

 ◆ソウルフルなヴォーカルとアンビエントなサウンドの競演

 まず、WakingNormanを特徴付けているのは、リード・ヴォーカリストのTory Allen Mayfieldだろう。
 とても柔らかく、ナチュラルなサウンドを基本としているWakingNormanだが、ヴォーカル・ラインを辿る声は非常にソウルフルである。
 先入観なしで聴くと、黒人ヴォーカルと見紛う程の声量豊か且つ体積の重さが、はちきれんばかりだ。
 筆者が一番最初にHootie & The Blowfishのレコードを聴いた時、Darius Ruckerが黒人か白人か分らなかった。しかし、当時はそのアメリカン・トラッドをベースにした音楽性から、到底黒人リード・ヴォーカルのバンドとは思えず、ソウルフルな白人の歌い手によるバンドだと結論付けたものである。
 同様の事が、WakingNormanの#1『Lullaby』を耳にした時発生した。
 Troy Allen Mayfieldは、ファンキーにシャウトするブラック・ヴォーカリスト程には暑苦しくないけれども、十分黒人ヴォーカルで通用する質量タップリな声を持っている。

 しかし、Troyの才能が一番見える所は、濃い目一点張りではなく甘く歌うべき場面ではしっかりと甘く、そして抑えて歌うべきポイントでは抑えて歌えると器用さにある。
 HootieのDariusが黒人としては粘っこさが少ないホワイト・サウンド向きの声質をしているのと同様に、ソウルフルでありながらそれでいてマッタリとしてしつこくない(ヤメレ)、ソウルミュージックよりもポップロック向けなヴォーカルがTroyの持ち味なのだ。
 ソウルフルという表現を使うならば、1980年代のロックファンには即座に代表例として頭に浮かんでくるMichael BoltonやHeuy Lewis。これらの完全にR&Bやソウルを熱唱するのに適したハード声ではなく、よりオルナナティヴな需要に応えるパワフルヴォイスという感じだ。

 以上のように、リッチなヴォーカルが、ヴァイオリンとアクースティックギターを中心としたジェントル・ミュージックを牽引する。
 普通、アクースティック且つポップなインストゥルメンタルに相性が宜しいのが、ハイトーンやソフト系のヴォイスだし、全般とは云わないが、アクースティック系のバンドには素朴で自己主張を際立たせない(良い意味で)タイプのヴォーカルが多いと思う。
 更に、これまた一般論かもしれないが、女性的で透き通るような声が、アクースティック・ポップには無難に合致するだろう。

 特に、WakingNormanの場合、ミディアムテンポ以下の曲になると、ノン・ヴォーカルにしてNew Ageのアルバムとして発売しても不思議の無いくらい、ヒーリング効果を付与したような綺麗な演奏で綴られている。
 そこに、黒人としても通用しそうなタップリ声が入ってくるのだ。「アンバランス」の看板を首から吊り下げて、市中練り歩きの刑に処されても文句の言えない対照さが存在する。
 だがしかし、BGM専門のFM曲で流しても自然に溶け込む感の強いアンビエント且つ美しいアンサンブルに、この濃い目のヴォーカルが非常にフィットしているのだ。
 正反対とまで両極端ではないにしろ、タイプの異なるヴォーカルと演奏が、その温度差がプラスに働いて不思議と上手くブレンドされている。

 『餡子に醤油を一適垂らしたら甘みが増す』

 のような、“賢い甘味の食し方”ではないけれども、性質の異なるエレメントが、その対照さを以ってお互いを引き立たせる役割を果たしていると云えるだろう。
 仮定の話だが、Tollyのヴォーカルが実に女性的で繊細な声だった場合、バッキングとのマッチングは大変宜しかろう。とても甘く、デリケートなアクースティック・ジャム・ポップのピースが出来上がるに違いない。
 しかし、この「Two Years Gone」のような独自性のある作風としては耳に届く事はないと想像する。仮に、全ての曲とメロディが同一だったとしてもだ。
 例えば、ノリ良くワルツするグラスロック風のナンバーである4#『3ms』やスリリングな展開を見せるスケールの大きな#6『Losing』等は、繊細系のヴォーカルでは絶対的なパワーが不足する。
 また、ソウル・ミュージックの流れを感じさせる大らかさと、ジャムサウンドの影響を受けたヴァイオリンを中心とした優しいサウンドがブレンドされた#1『Lullaby』。このナンバーも、Troyの声が曲全体の存在感を増量している為、歌の持つインパクトが強調されているのだ。

 単なる、優しいだけ・甘いだけのアクースティックバンドになっていないのは、アレンジ自体のユニークさもさることながら、Troyのヴォーカルにある。
 DMBがメジャーシーンにて注目を集め、全米トップ収益を上げるライヴバンドとして成り上がったのは、そのジャジーでワールドビートな特異性サウンドもあるだろう。と共に、Dave Matthewsのソウルフルでありつつ、ハイトーンやハスキーヴォイスを使いこなす声の印象がリスナーの耳に残った事も爆発的な人気を勝ち得る原因になったのは異論を挟む余地も無かろう。
 Troyも、良くある“ソウルフルなヴォーカリスト”に数えられるひとりである。ソウルフルという類型に属する声のタイプは様々だが、Troyはそれ程稀有な声という程でもない。歌い方も超絶に技巧派という訳でもない。
 しかし、演奏パートとのアンマッチさという、普通ならばマイナス要因として働きかねない現象を坂手に取る形で自らの声を一回り以上印象付けている。
 とはいえ、狙って以上のような効果を求めたのではなく、たまたまTroy Allen Mayfieldというシンガーがアクースティック好きのシンガーで、彼の声が太かった結果がWaking Normanの音楽になっているだけだと思う。
 力みの無い、自然なサウンドには、そういう細工を覚える事もない。

 ◆ヴァイオリン・ヴァイオリン
 そして、インストゥルメンタルとのアンマッチと共に、WakingNormanのサウンドを特徴付けているのが、バンドのパーマネントメンバーとしてストリングス弦のみを引きまくるヴァイオリニストMike Horneと、彼の抱えるヴァイオリンの存在である。
 アダルトロックや、少々畑違いのブルーグラス等におけるフォーク・ヴァイオリンたるフィドルの使用という具合に、ヴァイオリンは特段ロックには珍しい楽器ではない。
 しかし、ジャムとはいえロックバンドを名乗るユニットで、テンポラリーヘルプではなく、フルタイムでヴァイオリンをアンサンブルに加えているバンドはそうはないだろう。
 しかも、「フィドル」ではなく、より繊麗された音色を紡ぎ出す「ヴァイオリン」である。
 バンドの活動拠点が南部テキサス州と言う事を鑑みると、結構レアな楽器編成だと思う。

 このMikeが奏でるヴァイオリンが、単なるアクースティック・ジャム的なサウンドを大きく差別化している。DBMのサックスフォンと同等の効果を得ているのが、ワンマン・ストリングスのパートなのである。

 しかも、場面、曲、雰囲気、といった様々なシチュエーションでとても豊かな表情を見せ、多様な役割を担っている。
 代表例を挙げてみよう。
 アルバムの中でも、最もバランスの良いルーツポップになっている、#1『Lullaby』。オープニングのアクースティックギターリフに被さる演奏は、アダルトでレイドバックした感覚を曲に持ち込んでいる。この初っ端で、WakingNormanのユニークさを主張する働きをしている。
 加えて、中盤のエレキギターソロ部分でのユニゾンにて、エレキギターに遜色ない「弦楽器」のドライヴ・フィーリング。こちらではパワフルなロックンロール演奏の支え役として活躍している。
 この、エレキギターの代役としてのロールは存外に多い。
 南部のバンドらしい、ゆったりした#5『Sister』ではまさにギターとしてソロパートを聴かせてくれる。後半のブリッジ部分でも分厚い弦が跳ね回っている。

 歯切れの良い、何処かにスカを思わせる#2『Letting Go』でも独特の雰囲気を演出するのに力を貸している。
 終始、バックで速弾きをキュルキュルと聴かせると同時に、幾つかのソロパートでは、大陸的哀愁を漂わせる音色を発している。
 ふくよかなコーラスや太いTroyのヴォーカル、そしてサクサクなギターがサウンドに華を与えているのは間違いないけれども、ヴァイオリン・パートの持つ存在感は大きい。

 また、#4『3ms』のハード・ブルーグラスとも云える、グラスルーツさを演出するインストゥルメンタルとしての仕事もする。
 ラストナンバーの#11『Bonk』でも、アクースティックなノリのソウルナンバーという流れに、やや物悲しいブルーグラスの空気を付け加えている。
 このナンバーは、仮にヴァイオリンが無ければ、よりシンプルなイメージに仕上がったと思う。メロディからはソウル・ポップへの傾倒が匂って来るのだが、ヴァイオリンの弦がより深みのあるアンサンブルで曲を飾っている。
 という具合に、単なるバッキングストリングスとしてではなく、メインの楽器としての活躍は大きい。

 ◆R&Bやソウル、カントリーの要素も含めたミックス・サウンド

 ジャムロックの本質といえば、アクースティックサウンドを大切にする姿勢の他に、ジャズ、ソウル、R&B、カントリーといった様々な音楽要素を取り込んで、エキセントリック且つグルーヴィなリズムを創り出すユニークさが挙げられる。
 昨今の安直なジャム・フォロワーにはこの辺りが徹底的に欠如しているのだが、その愚痴は他所へ置くとしよう。

 WakingNormanは、南部テキサスのバンドらしからぬアンビエントな表情を見せるバンドだ。しかし、基本にあるのは南部のサウンドで、その骨組みに様々な血肉を通わせている。
 #8『Holding It In』で聴かせる、ダークでクールなR&B感覚と南部サウンドの質感の融合。黒人ドラマーであるJohn Currthのドラミングが実にグルーヴィな辛味のあるナンバーだ。Troyの魂の篭ったヴォーカルが活躍するのはこのタイプの曲。
 続く#9『Found』も、やや暗めなソウル・フィーリーなミディアムナンバー。マイナーなメインヴァースに比較して、ゆったりとした丸みのあるコーラス部分は南部バンドらしい包容力が伺える。地味だが、噛み甲斐のあるソウルナンバーだ。
 エンドブリッジでのTroyの熱唱は聴き所のひとつだ。

 陽気にワルツを刻むヴァイオリンが、モロにカントリーしている、#10『Don't Believe In Me』。出だしの牧歌的な雰囲気が最後まで支配すると見せかけ、ベースのソロとシェイカーがジャジーなインタープレイを展開する中盤からは、よりワールド的なフリーミュージックなラインに流れ込んでいく。エレキギターとヴァイオリンの掛け合いはかなり熱が入っている。
 最後はまたグラスソングに立ち返るのだが、こういう多彩な展開は、スケールの大きい#6『Losing』に通じる面がある。
 アルバムでは#1と並んでフックの強烈な#6では、フィドル的に奏でられるヴァイオリンがカントリー・ミュージックへの憧憬を表現すると共に、弾むリズムが目まぐるしく変化するコーラスとヴォーカルの掛け合いを盛り立てる。
 緩急の付いたラインと、豊かなメロディは、エレクトリックで引っ張らなくても曲を活き活きと提示出来る可能性を示唆していると思う。

 ◆レヴェルの高いバラード群

 このアルバムでは特にレヴェルの高いミディアム調のバラード、#3『Stuck In A Stare』と#7『Love In The Wasteland』。
 どちらも、仄かに漂うカントリーや南部フィーリングがポップなメロディに息づいている。
 ヴァイオリンをバッキングストリングスとして活用し、アダルトでしっとりしたバラードに仕上げている#3『Stuck In A Stare』。
 盛り上げる所は盛り上げ、優しく背中を押す所は、優しく。と、バランスの良い配分になっている。
 アクースティックサウンドが主眼とは云え、WakingNormanはしっかりエレキギターも使用しており、サウンドがダイナミックさを持つのは、筆者が最も気に入っている#1や#6でもはっきりと示されている。

 アクースティックなギターで爪弾かれる前半と、ベースラインが印象な後半のロック部分のコントラストが素敵な#7『Love In The Wasteland』。オルガンやエレキギターのソロが目立つ珍しいナンバーでもある。
 ジェントルな暖かさでは#3に一歩譲るかもしれないが、バラードとしての構成では互角の佳曲である。

 ◆Two Years Gone − バンド結成から2年後のロールアウト

 Troyがヴォーカリストとして所属していた、Benjamin Allen Band(BAB)を脱退し、WakingNormanを結成したのが2001年。
 BABはオリジナルソングよりもカヴァーの方が多い、ブルースやカントリーを感じさせるバンドだった。
 WakingNormanには、BABのブルース・フィーリングはあまり受け継がれていないが、BABのユニークさを代表していたヴァイオリンはしっかりと継承されている。
 残念なのは、BABで頑張っていたB3ハモンドが殆どWakingNormanでは聴けない事だ。
 BABよりもよりアクースティックに、そしてヴァイオリンを中心としたシンプルだが奥の深いサウンドを組み立てているだけに、もし加わっていれば更にサウンドを豊かにしただろうオルガンが数曲でしか使われていないのは不満を感じる。ピアノに至っては皆無だし。

 Troyによると、「このレコードはこれまでの僕のキャリアを全てつぎ込んだ集大成。」だそうだが、確かに、1990年代初頭からソングライターとして活動してきたTroyのソングライティング能力が発揮されたアルバムである。
 独特のヴァイオリンの入れ方と、R&Bやソウル、そして微かなカントリーサウンドをベースにした柔らかい南部サウンドは、非常にオリジナリティがある。
 そんじょそこらのジャムバンドの薄さとは次元の違う、クリエイティヴな可能性を感じさせるサウンドである。まだまだ未成熟な部分は目立つけれども、今後の展開によっては大化けする事も十分に考えられる。

 「Two Years Gone」 − バンドを結成し、2年が過ぎたよ。だから満を持してアルバムを出した。

 このような自信と余裕の感じられるアクースティック・ベースのポップアルバム。
 ロックンロールの痛快感とはかなり異なる面白さがあるので、一度聴いてみて損は無いだろう。 (2004.5.3.)


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